平成18年度診療報酬改定について 〜その概略と問題点〜

 平成18年度の診療報酬改定に関する中央社会保険医療協議会での審議は、さかのぼる平成16年度に開催された高齢者リハビリテーション研究会における「急性期のリハビリ医療が充分に行われていない」「長期にわたって効果が明らかでないリハビリ医療が行われている場合がある」「医療から介護への連続するシステムが機能していない」「リハビリとケアが混同して提供されているものがある」「在宅におけるリハビリが不充分である」といった指摘を出発点として進められてきました。

 この指摘自体は、典型的な要介護高齢者、すなわち、脳卒中のような急性発症のリハビリの一つの側面を念頭においたものであり、全ての疾患のリハビリの実態を反映した指摘ではありません。

 通常の改定であれば、現状の制度を発展させながら、上記の指摘の不足している点を補うのが、今回の改定ではリハビリ医療の理念も含めて根本から変えられることになりました。また、介護保険側の受け皿もないまま、医療保険のリハビリの大幅縮小というハードランディングを企てた形になっています。

今回の改定の概要は以下の通りです。

特に病院等で行われる医療リハビリに関して、
(1)現行の体系を改め、新たに脳血管疾患等リハビリ、運動器リハビリ、呼吸器リハビリ及び心大血管疾患リハビリの4つの疾患別体系とする 
(2)長期にわたり効果が明らかでないリハビリが行われているとの指摘を踏まえ、疾患ごとに算定日数上限を設定するものの、1月に一定単位数以上行った場合の点数の逓減制を廃止する
(3)集団療法の廃止、機能訓練室の面積要件の緩和、発症後早期の患者1人・1日あたりの算定単位数の上限の緩和等を行う、
(4)回復期リハビリ病棟入院料について、算定対象となる状態を拡大するとともに、当該状態ごとに算定上限を設定することで入院期間を短縮する、
という内容が提示されています。これらを整理したのが<表1>です。

<表1>制度の概略
脳血管疾患等
リハビリテーション
運動器
リハビリテーション
呼吸器
リハビリテーション
心大血管疾患
リハビリテーション
対象疾患脳血管疾患
脳外傷
脳腫瘍
神経筋疾患
脊髄損傷
高次脳機能障害

など
上・下肢の複合損傷
上・下肢の外傷・骨折の手術後
四肢の切断・義肢
熱傷瘢痕による関節拘縮

など
肺炎・無気肺
開胸手術後
肺梗塞
慢性閉塞性肺疾患であって重症度分類2以上の状態の患者

など
急性心筋梗塞
狭心症
開胸心術後
慢性心不全で左心駆出率40%以下
冠動脈バイパス術後
大血管術後

など
リハビリ
テーション料(1)
250点180点180点250点
リハビリ
テーション料(2)
100点80点80点100点
算定日数の上限180日150日90日150日

これを見ていただくと、リハビリ医療の対象疾患が4つの群に分けられ、それぞれの群によって訓練1単位(20分)あたりの診療点数と算定日数上限(訓練を実施できる期間、打ち切りまでの期間)が決められていることがお分かりかと思います。

また回復期リハビリ病棟の入院患者についても同様に、算定日数の上限が示されています<表2>。

<表2>回復期リハビリ病棟の対象患者
1.脳血管疾患,脊髄損傷等の発症又は手術後2ヶ月以内の状態
算定開始後
150日
  (高次脳機能障害を伴った重症脳血管障害,重度の頚髄損傷および
   頭部外傷を含む多発外傷の場合)
算定開始後
180日
2.大腿骨,骨盤,脊椎,股関節又は膝関節の骨折又は手術後2ヶ月以内の状態算定開始後
90日
3.外科手術又は肺炎等の治療時の安静により生じた廃用症候群を有しており
手術後又は発症後2ヶ月以内の状態
算定開始後
90日
4.大腿骨,骨盤,脊椎,股関節又は膝関節の神経・金・靱帯損傷後1ヶ月以内の状態算定開始後
60日

 これらの改定はすでに今年度4月1日から施行されていますが、現場のリハビリ科医師、専門職や患者さんからは、以下のような疑問や不安が上がっています。

○示された疾患群に該当しない場合(例:糖尿病、透析)はリハビリを実施できないのか?
○疾患群によって診療点数に差があるが、訓練の質には影響しないのか?
○脳卒中片麻痺は発症後1年程度まで機能回復すると言われてきたにも関わらず、脳血管疾患等リハビリはたった半年(180日)で終了になってしまうのか?
○意識障害や他の医学的事情でリハビリの開始が遅れた場合、リハビリの実施可能期間が短くなってしまうのか?
○回復期リハビリ病棟の入院期間が短縮されると、疾患によっては基本動作の改善途上であっても機械的に自宅生活を余儀なくされるのか?
○発症後長期にわたり機能回復が期待できる場合であっても、算定日数制限を越えているとリハビリ対象にならないのか?

一律打ち切りになると相当の混乱が予想されることから、打ち切りの対象外の疾患、いわゆる除外疾患を厚労省が発表しました。<表3>

<表3>除外規定:上記算定日数制限から除外
失語症・失認および失行症
高次脳機能障害
重度の頚髄損傷
頭部外傷または多部位外傷
回復期リハ病棟入院料を算定する患者
難病リハビリテーション料に規定する患者
障害児・者リハビリテーションに規定する患者


しかし、除外疾患が正確に把握できたのは、4月1日実施まで2週間を切った時期であり、すでに厚労省からの情報により4月から打ち切った例もありました。さらに、情報不足により、現場の混乱が生じたため、4月1日に打ち切る疾患については、4月1日に発症したことにするといういわゆるリセット措置がなされました。これによって、数カ月打ち切りまでの日数が緩和された一方で、すでに打ち切られた患者さんとの不公平などの問題も生じています。

また、打ち切り問題が報道されるたびに、厚労省は『除外規定があるから問題ない』と言いますが、リハビリを継続的に必要な人の多くが、実際には除外規定から漏れることがわかってきました。

さらに問題は、除外規定の疾患は無条件にリハビリを続けられるのではなく、「医師により改善が期待できる場合のみ」となっています。つまり、リハビリを行うことによって「維持」できている場合、リハビリを中止したら確実に悪化するとわかっている場合も、「改善が期待できる」という規定には入りません。

 私たちは、今回の改定が疾患あるいは症状の特異性と多様性を認めないばかりでなく、命にかかわる場合でも一律に打ち切る硬直化したリハビリ医療に強い危機感をもっています。さらに、「社会復帰を目標として」「自分らしく生きるために」「QOLを高めるために」リハビリ医療を受ける患者さんの権利を奪うものとして、改定に反対しています。

全ての改定点について問題があると考えておりますが、リハビリ打ち切りの問題は、多田富雄さんの「リハビリ打ち切りは死の宣告」をきっかけに、最も緊急に取り組むべき問題点と考えました。

ここに、リハビリ打ち切り反対署名を行う所存です。